多彩なスタッフが所属する福岡地域戦略推進協議会(FDC)事務局メンバーを紹介する企画、今回はネットサービス・IT業界で多くの新規事業立ち上げの経験を持つ、鈴木慎之介シニアフェローのインタビューです。
―鈴木さんは2017年7月、FDCのシニアフェローに就任されました。まずは簡単にプロフィールを教えてください。
僕は東京で生まれ育ち、中学生の頃から独学でプログラミングを身につけて、作ったゲームをネットで公開していました。高校3年生だった1999年の年末、知人を介してドワンゴに入社しました。ドワンゴという会社も知らなかったのですが、インターネットの技術を開発しているという話を聞いて、その当時としてはとても先進的なことをやっている会社だなと思いまして。卒業前の2月から働き始め、有休をとって卒業式に出ました(笑)。
―有休で高校の卒業式に出られたとは(笑)。最初はどんな仕事をしていたのですか?
肩書としてはプログラマーです。でも、携帯ゲームの開発や新規事業の調査など、様々な仕事の機会をいただきました。2001年には携帯電話音楽サイト、いわゆる着メロサイトを作って立ち上げを担当しました。それから、2006年12月に動画配信サイト「ニコニコ動画」を立ち上げました。僕とデザイナーとプログラマーの3人で、しかも実質3~4日で作ったのですが、サイトの規模が大きくなるのに伴い、メンバーを増やしてしっかりとした開発体制を作ろうということに。そのときに僕がマネージャーとなり、開発チームを統括することになりました。
―その後はいかがでしょう?
2012年には開発子会社の社長になり、2014年にドワンゴに帰任しました。それからデザイン部門の統括などをしていたところ、2017年7月に福岡で株式会社プロジェクトスタジオQを設立することになり、技術管理統括に就任しました。スタジオQは、当社と「エヴァンゲリオン」シリーズの庵野秀明監督が社長を務める映像会社カラー、人材育成機関・麻生塾の3社で設立した3DCGアニメーションスタジオです。
―福岡で新しいスタジオを作ることになった経緯を聞かせてください。
ドワンゴでアニメーションスタジオを作ろうと考えたとき、地方にいい人材がいるのではないかという話になったのです。東京では3DCGクリエイターの獲得競争が激化している状況で、アニメ業界としては人手不足でアニメを制作することが困難となってしまう。ならば僕らで人材を育成しようと、カラーとも相談し、人材育成ということで学生を多く抱えてらっしゃる福岡の麻生塾さんに声をかけさせてもらい、2017年7月スタジオQの設立に至りました。
その後12月にオフィスが竣工しました。それからAward:Qという映像コンテストなどを開催したことで認知度が上がり、今はスタッフがそれなりの規模の人数になりました。
―とても素敵なオフィスですね。
ありがとうございます。できるだけ落ち着いて仕事ができるような環境はなにが良いかと皆で考えたところ、和のテイストを取り入れようとなり、九州産の木材をふんだんに使い、この和室も作りました。
―鈴木さんはスタジオQでは技術管理統括という役職ですね。ドワンゴと兼務ということで、拠点は東京ですか?
はい、僕は基本的には東京にいて、チャットワークで業務を行っています。僕の担当領域は、技術全般の統括と日頃の業務運営を行なっています。先ほどお話したように、このスタジオの目的のひとつに人材育成があるので、事業内容は映像作品の制作、映像作品の制作に関わる人材の育成としています。
―FDCのシニアフェローに就任されたきっかけは?
もともとは3年ほど前、FDC事務局長の石丸氏と技術ベンチャーのコミュニティで知り合いました。スタジオQを設立するにあたって、行政や福岡の方とのやり取りが必要になりますし、こちらも何か提供できるものがあってシナジーを生み出せるかもしれないと思い、石丸氏に相談したところ、シニアフェローにどうかとお声がけいただきました。
―今、具体的にFDCと取り組んでいることがあれば聞かせてください。
まずは先日FDC会員様向けに、新規事業をテーマに講演の機会をいただきました。これを機にFDCを通じて僕の経験やノウハウやテクニックをお伝えして、もし役に立つものがあれば生かしてもらえればと考えています。
―福岡で会社を設立されて1年4か月経ちました。福岡にはどんな印象をお持ちですか?
昔から山笠が好きで、10年以上毎年見に来ています。神様に対して信仰を持つという山笠のエンターテイメント性は本当に素晴らしいと思います。
最初に福岡に来たときに驚いたのは、アクセスのよさ。今も東京からここへ来るときドア・ツー・ドアで3時間弱なので、これは福岡の大きな強みだと思います。
あと、僕の主観ですが、まちの雰囲気があくせくしていなくて落ち着けるんです。これはクリエイティブにとってすごくいい。福岡はモノづくりに適した街だと思います。例えば、忙しかったり仕事に没頭する余裕がなかったり、ノイズが多かったりすると、気が散って集中力が欠けて、クリエイティブが止まるのではないかという仮説があります。没頭できる環境は極めて重要で、福岡は絶対にクリエイティブに向いていると思います。
―実際に福岡にスタジオQを設立されて、いかがでしょう?
スタッフが増えているというのが結果を出している証ですね。うれしい悲鳴として、このオフィスが手狭になってきています。東京から移住してきたスタッフやUターンで戻ってきたスタッフも増えてきました。
―反対に、福岡の課題はどんなところでしょう?
うーん、課題は全然思いつきません。むしろやれることがまだまだいっぱいあって、大きな可能性を感じる。新規の事業開発という側面からみても、ベンチャーへの税制優遇などは先進的で、素晴らしい活動をされているなと思います。
―会社の設立を含め新規事業を数多く立ち上げてきた鈴木さんにとって、新規事業でうまくいくコツがあれば教えてください。
マーケティングや事業戦略などのセオリーを説く本はたくさんあります。ただ、僕自身は本で勉強するのではなく、自分でやってみて学ぶタイプ。実際にやるとすごく強く刻み込まれるので、そこで学んだことを次に生かしていくスタイルなんです。その上で実践してきたことが3つあります。
1つ目は「戦わずして勝つ」。例えば、先ほどお話したスタジオQを福岡に作った一番の理由は、東京で人材獲得が難しから、福岡を拠点にして同時に育成もしようと。これは戦わない選択なんです。言葉をかえると、なるべく他の人と違うところを探すということですね。
2つ目は「既存事業を活かす」。完全に別の事業をやるとよほどうまくやらないと失敗するので、既存のアセットを使った成功の確度はあがるかと思います。
3つ目は「環境を創造する」。これは先ほどの場所のことで、事業に集中できる場所・時間・構造を作ることが大切です。新しいことをやっていると「それ成功するの?」なんてガヤが入ってくる。そういうのを除去するために場所を変えることは有効です。
あとは事業速度を速めるために、決済のためのハンコを何十個とかせずに、スピードを最大化することも重要だと思います。
―新規事業はチームでやるものだと思いますが、そこで気をつけていることはありますか?
強いて言えば、自分はこれをやるという強い意思と、人へのリスペクトかと思います。もし意見が対立したらとにかく話して、ダメだったら責任ある立場が決め、責任を持つというルールにする。もちろん成功ばかりではないので、試行錯誤ですね。
―鈴木さんにとって、新規事業の面白さはどんなところでしょう。
僕の仕事の分野でいえば、アニメはセル画からCGに作り方が変わっているのが面白いし、デジタル化やIT化によって工夫のしどころがいっぱいある。早く面白いものを作るという過程も好きだし、出来上がりのアウトプットも楽しい。
一般的なところでは、プロセスとゴールが魅力ですね。プロセスというのは、誰とどのようにやるかということ。うまくいかせるためにみんなが集まって、みんなで分かち合う。すごく辛いこともあるけど、出た瞬間が気持ちいい。これが本当にやめられないのです。
―これからやっていきたいことは?
今やっていることがこれからというものが多いので、それを全部伸ばしたいというのがあります。それから、FDCとも何か仕掛けていきたい。僕の知見でもし少しでも役に立てるのなら、FDCの会員様に新規事業の楽しさを知ってもらい、実際にいろいろ立ち上げてほしいですね。もちろんサポートもします。
―最後に、好きな本と趣味を教えてください。
いろんなジャンルの本を読んでいますが、どれか1冊と言われれば、小さい頃に一番読んでいて覚えている「ドラえもん」ですね。秘密道具に憧れて、作りたいなと思った。あぁ、なんか恥ずかしい…でも、技術は人を幸せにするというのが僕の信念なんです。
あと、趣味というか昔から好きなのは、高速道路のジャンクション。高速道路好きが高じて、人前で講演したこともあるくらいです(笑)。
2018年12月3日取材
所属・肩書きは当時のものです
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シニアフェロー
鈴木慎之介
1981年生まれ。2000年株式会社ドワンゴ入社。エンジニアとして、2006年ニコニコ動画を立ち上げる。その後、開発部長、ビジネスプロデューサー、開発子会社社長を歴任。以降、ユーザーの体験向上を目的としたプロダクト開発やチームマネジメントを推進。2014年マルチデバイス企画開発部長としてドワンゴに帰任。2015年デザイン戦略室長として、デザイナーの組織化を行った。2017年7月、スタジオカラー・麻生塾・ドワンゴの3社によって福岡市に設立された3DCGアニメーションスタジオ「株式会社プロジェクトスタジオQ」の技術管理統括に就任。スタジオと福岡市との連携強化のため、福岡地域戦略推進協議会へ参画。