多彩なスタッフが所属する福岡地域戦略推進協議会(FDC)事務局のメンバー。今回はヘルスケアを専門領域とするフェロー・島村のインタビューです。
―島村さんは2016年4月、FDCのフェローに就任されました。大学生のときから医療福祉分野に携わられていますね。何かきっかけがあったのでしょうか。
実は私、5歳のときに肺炎で生死の境をさまよって、三途の川を見たことがあるんです。かかりつけ医では分からなかった肺炎を大きな病院で見つけてもらい、医療に興味を持つようになりました。その病院は心の温かいスタッフの方々が長く働いていて、私もこんなところで働きたいと思いました。その思いはぶれることなく、医学部に進学して看護師と保健師の免許を取りました。
―ちなみに、大学生のときは「ミス日本」だったとか。
はい、2007年ミス日本に選んでいただきました。メイクも苦手で、ハイヒールもはいたことがないタイプだったのですが、地区予選通過後からレッスンが始まり、美や魅せ方に関するいろいろなことを学ばせてもらいました。自分の在り方を深く考えるいい機会になりました。
―医学部を卒業して、病院へ就職されたのですか。
いえ、それが3年生の病院実習で、理想と現実のギャップに大きなショックを受けました。それを象徴する出来ごとのひとつが、「病院は効率と安全性を重視するあまり、デザイン性や快適性が置きざりになっていないか」と当時担当した患者さんからの問題提起です。確かに、入院生活で患者さんのストレスが増してしまい、鬱のようになってしまう方もいました。さらに、認知症患者さんが多い福祉施設に行ったときにも、衝撃的なシーンをたくさん目の当たりにして、いたたまれない気持ちになりました。現場を知れば知るほど違和感が膨らみ、行く先々で問題意識を持ってしまい、これを変えるにはどうしたらいいか考えるように。そして、経営コンサルティングの会社に就職することになりました。
―なるほど、経営側から現場を変えたいと思われたのですね。
「医療や福祉の課題を解決するためには、いろいろな分野の人たちが関わることが大切」という思いのもと、経営コンサルとして、異業種から医療や福祉事業に新規参入する企業のサポートを担当しました。とにかく勉強して、たくさんの事例を見る中で、介護に関わる人たちがどんどん仕事を辞めていくことに驚きもありました。そして、もっと現場を知りたい、という思いから、老人福祉施設の看護師に転身しました。そこで感じたのは、「地域とのつながり」が、施設の利用者にとっても職員にとっても重要なのではないかということです。そこで「地域とつながる」ことを掘り下げるために、2015年NPO法人ミラツクに参画しました。
-FDCとの出会いと、印象について聞かせてください。
ミラツク代表の西村さんとFDC事務局長の石丸さんが知り合いで、FDCの存在は知っていました。転機になったのが、2016年3月に開催された経産省の「ヘルスケアビジネスコンテスト」です。石丸さんは講演者、私は審査員としてお会いして、初めてしっかりお話させてもらいました。そこから私とFDCとの関係が生まれました。
FDCは「九州の窓口」という印象を持っていました。例えば、私の地元の大阪では、何か新しいことをやりたいと思ったとき、どこに行けばいいか分からない。でも、福岡や九州で何かしたいなら、FDCという分かりやすい窓口があります。FDCは企業と個人にも開かれていて、福岡で何かしようと動いたら、結局はFDCにたどり着くというイメージです。すごいですよね。
―当時、島村さんはどんな活動をされていたのでしょうか。
今も同じですが、ミラツクでは執行役員を務める一方で、独立コンサルタントとして、地域や企業がヘルスケアビジネスを立ち上げる支援を行っていました。企業が医療や福祉分野のプロダクトやサービスを作る場合、いったん試してエビデンス(証拠・根拠)がないと世の中に出せません。いわゆる実証実験を経て社会実装に至る過程が必要です。石丸さんとじっくりお話して、福岡は実証実験の街になろうとしていること、それに向けてのチャレンジをしていることを知りました。
そして、改めて九州のことを学んでみると、物も人も福岡に集まっていて、一方で福岡には産業がないので、それを強みにしようという発想がすごく素晴らしいと感動しました。この強みをつきつめると、当たり前に新しいものが集まり、挑戦しやすい街になりますから。アジアに発信しやすいロケーションもヘルスケアに携わる人にとって魅力のひとつですね。FDCはヘルスケアの分野に力を入れていくことを聞き、私もここで自分が思い描いていることができると考え、参画させていただくことになりました。
―島村さんが思い描いていることとは。
地域でヘルスケア事業の社会実験や社会実装が行われると、地域が盛り上がり、地域で暮らす人たちが元気になる。かつ、企業もそのエビデンスを使って、横展開ができます。ヘルスケアを活用した地域活性化ですね。それがひいては、先ほどお話した医療福祉業界と地域や社会とのつながりを生み出し、その流れを加速できると思っています。私はそれぞれの立場を経験してきたからこそ、コーディネーターや通訳的な役割を担い、ヘルスケアや医療業界の発展を応援したいと考えています。そうして、思いやりや愛情がきちんと循環していく社会になるといいなと願っています。
―福岡の魅力や課題をどのように捉えていますか。
実証実験の場として、福岡は若い人が多くて新しいことが好きなので、最先端のものを持ってきやすいですね。私自身もいろいろな事例を見てきた中で、いい事例は福岡で実証実験をしているところが多い印象です。注目されているものが集まってきていると感じます。
九州全体としては、福岡に集まっているのは、良さでもあり課題でもあります。福岡を良くすれば全体が良くなる一方で、一極集中によって他の地域では過疎化などの課題が増えますから。福岡には、九州全体の課題を解決して未来を作っていく責務があり、そういう存在であってほしいと思います。
―最後に、好きな本を教えてください。
仕事関係の本をいっぱい読むのですが、好きな本と言われると…マンガですね。少女マンガや現実離れしたファンタジーが好きです。今、ハマっているのは「将国のアルタイル」。お母さんを亡くした男の子が戦争を憎み、戦争をしない国づくりを志して成長していくストーリーです。めちゃめちゃ面白いですよ。って、最後がこんな話で大丈夫でしょうか(笑)
2018年3月8日取材
所属・肩書きは当時のものです
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フェロー
島村 実希
京都大学医学部人間健康科学科卒、看護師・保健師。船井総合研究所にて企業の福祉業界への新規参入案件を中心に経営コンサルティングに従事。退職後、看護師として老人福祉施設に勤務。国連、海外医療機関でのインターンを経て、NPO法人ミラツクで執行役員に就任。ヘルスケア部門を立ち上げ、産官学金に医療福祉業界を含めたプラットフォームを創出。現在は独立コンサルタントとして、地域や企業が持つ既存資源を活用したヘルスケアビジネスの立ち上げを支援している。